2009年06月18日
夏休みの匂いとMILKとテレビ
まだ、怒濤の釜山マッサージの影響が残っていて、体が少々だるい。
朝刊をゆっくり読んで、9時過ぎに自宅を出て、事務所へ歩いて向かった。
県庁前を通りかかった時、楠並木の東側が白く煙っているのに気付いた。
「ん、霧か?」と一瞬思ったが、すぐに、にわか雨が、東から迫ってきているのだと、理解した。見ると、県庁前に居た数人の観光客や警備のガードマンが、楠やガジュマルの木陰に走り込んでいる。
数秒後には、大粒の雨が、バシャバシャと降ってきた。私は、アパートを出る時、北の空の雲行きを見て傘を持っていたので、そのまま傘をさして歩いた。
県庁角の信号を渡ろうとした時、ツンと、懐かしい匂いが鼻をくすぐった。
熱されたアスファルト道路に降った雨の匂いだ。少年だった頃、夏休みに何度も体験した不安と優しさの入り交じった不思議な感情を喚起する匂いだ。
この夏休みの匂いは、道路が濡れきってしまえば、もう無くなってしまう。
一瞬の夏休みだ。
私は、靴もズボンもずぶ濡れになって歩いた。
昨夜、宮崎キネマ館で、MILKを観た。
何の予備知識も無しに、MILKを観た。
カミさんに誘われていたので、コメディか何かだと思っていた。
冒頭のシーン。
地下鉄の出入口ですれ違いざまMILKが、行きずりの男に声を掛ける。
「今日、僕の誕生日なんだけど、ひとりにさせておかないでくれ。な、僕をひとりにさせるのかい?」
「そうかい、でも、悪いな。俺は40歳を越えた男に興味は無いんだ」
「それは、ちょうど良かった。僕は、あと数時間は40歳の前なんだ」と、MILKが腕時計を見る。そして、キスを求めるように顔を近づけると、男も、それに応じた。
その冒頭のシーンを観ている時、自分の感情に戸惑った。そのキスシーンを好意的に見ていない自分に気付いたからだ。理性的に言えば、ゲイに対する差別の意識はない、と思っている。なのに、この苦い感情はなに。
MILKを観ているうちに、その苦い感情が薄らいでいったのは確かだ。
しかし、それは、映画の中の世界として観ていたからなのかも知れない。
私にも分からない、この苦さ。
映画を見終わった時、私の友人「Y」を思い出した。
古い友人だ。度々会うような友人ではなかったが、たまに出会って、話した。
詳しくは、ここでは書かない。
数年前、Yと、福岡市天神にある神社脇の路上で、ばったり会った。
「あれ、久し振り! 元気してた? 今、仕事は何してるの?」
「今? バイト」「そう、前から家は、福岡だったっけ?」
「いや、2年くらい前から・・・」
「今日は今から用があるけど、ゆっくり会おうよ」
「そうだね。また連絡するよ」
「じゃあね」
それだけ言って、お互いに背を向けて歩き始めた時、Yが呼び止めた。
「あのね、・・・・・、俺、ゲイなんだ」
「そう」
私は、どう答えて良いのか分からなかった。どんな表情をしたのかも分からない。
特別な感情は、湧かなかった。「そう」としか答えようのない淡々とした気持ちだった。今、思い返しても、そう思う。そして、それが何故なのかも分からない。
それ以後、一度も、Yと会う機会はない。
MILKを観て自宅に帰り、遅い夕食を食べていた。
テレビのニュースで、「足利事件」で17年間服役していた後、釈放された管家さんに、栃木県警本部長が直接謝罪したと、伝えている。管家さんは、おそらく私と同い年だ。
管家さんの本来あったであろう17年間を思い描いた。
管家さんは、「本部長の誠実さが伝わった。許しても良いと思えた」と、言っている。
私は、「許すな、絶対に許せないと言い続けてほしい」と、心の中で叫んでいた。
しかし、管家さんは、許さざるを得ないのだ。
私の心は、悶々としていた。「許すな」と、叫び続けていた。
と、その時。
ニュースキャスターは、「次は、スポーツです」と言い、数歩、歩いてスポーツキャスターの隣に立った。ニュースキャスターの彼女の顔は、笑顔である。
「嘘だ」と、私は、心の中で叫んだ。
いや、実際に、持っていた箸を投げつけて、カミさんに向かって叫んでいた。
「ふざけんじゃねえぞ!」
もちろん、カミさんは何も悪くない。いい迷惑だ。
ニュースキャスターの彼女が悪い訳でもない。
テレビのその仕組みに、我慢がならなかったのだ。
どうしろ、こうしろ、と言っているのでもない。
ただ、我慢がならなかったのだ。
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